ストーリーには人を酔わせる力があるという話

人はストーリーに動かされる

人はストーリーに支配されている

人の感情とストーリー

まずはこちらの文章を読んでみてください。

今は落ち着きましたが、昔はヤンチャしていました。
毎日、改造したバイクにまたがって町を走り回ったり…
気に食わないヤツには、なりふり構わずケンカをふっかけていました。
本当に、どうしようもないヤツでした。

でも、そんな自分を◯◯さんが救ってくれました。
◯◯さんは堕ちるところまで堕ちた俺に、真正面からぶつかってきてくれたんです。
後にも先にもあんな真っ直ぐな人間に会ったことはありません。

◯◯さんに、今までの俺の行動を諭され、そこではじめて、親をはじめ傷つけてきた人達を気持ちを知ることができました。
今まで迷惑をかけてきた分、これからは真人間に生まれ変わり、他人に優しくしていこうと決めたのです。

今はワルから足を洗い、真っ当に生きています。

いかがだったでしょうか。

よくテレビなどで見られるお決まりの感動ストーリーですね。
一見して美しいストーリーですが、よくよく考えてみると、非行に走った人間が普通のまともな人間に戻っただけなんですよね。
「人の嫌がること・迷惑になることをしない。」という当たり前のことをやっと出来るようになっただけです。

ただマイナスからゼロに戻っただけで、正直、称賛できるところは何一つないんですよね。
人の気持ちを考えますとか、反省しているとか、じゃあ最初からやるなよ!って話です。

しかしながら、人って感情に支配された生き物ですので、上記のような浅はかなストーリーであっても、ちょっとの演出を付け加えれば…
あら不思議!
わりと簡単に人を感動させることができるんです。

ストーリーは共感を引き起こす

人はたとえ正しくないことであっても、それっぽいストーリーを用意されるだけで、簡単に支配されてしまう生き物なのです。

これは人間が感情的な動物であるためです。
ストーリーの中に感情を揺さぶる表現が盛り込まれることで共感し、あたかも自分が体験しているかのように錯覚してしまいます。

第100回記念年甲子園での金足農業高校の活躍

金足農業高校の持つストーリー

話は変わりますが、今年の甲子園での金足農業高校が大活躍しましたね。
そのとてつもない選手達の活躍に、秋田県のみならず、日本中が注目しました。
私も甲子園を見ていて、ハラハラドキドキしました。ぶっちゃけプロ野球より興奮しました(笑)

ここまで金農の活躍が注目されたのは、単純に甲子園で勝ち上がったという事もありますが、何よりその活躍ぶりに大きなストーリーが秘められていたからでしょう。

秋田勢103年ぶりの甲子園決勝進出を決めた『金足農業高校』の主人公力がすごいのツイート群からも分かるように、金農はまるで漫画の中から飛び出してきたような活躍ぶりでした。

金農のストーリーをざっと挙げてみました。

  • 第100回記念大会にして平成最後の夏という大舞台。
  • 秋田が決勝進出したのは第1回大会と第100回大会。実に103年ぶり!
  • 東北に優勝旗がくるか!?
  • 地元の人だけで構成されたチーム。
  • しかも、予選から全試合同じスタメン9人で戦い続ける。
  • エース吉田選手のプロ選手並みの活躍。
  • 勝ち方が毎回劇的。逆転に次ぐ逆転。決して諦めない。
  • 決勝の相手が大阪桐蔭高校。まさにラスボス。
  • 主人公の雑草軍団が、ラスボスのエリート集団に挑む。悟空VSベジータみたい。
  • 吉田選手はU-18日本代表に選抜される。
  • ラスボスだった大阪桐蔭の選手もU18日本代表に選抜される。最強のライバルが味方に!まさしくジャンプサイクル!
  • 次の相手は世界!さらに強大な敵と戦う…!
  • 俺たちの戦いはこれからだ…!

…本当に野球漫画のストーリーみたいですね…。

中でもエースの吉田輝星選手は、まさに漫画の主人公のような境遇です。
特に大阪桐蔭戦後のU18日本代表に選抜された事。強力なライバル達が今度は味方に。敵は世界のさらなる強敵たち。

…まじで漫画やん…。

ストーリーのメリット・デメリット

ここまで、金足農業高校の活躍とそのストーリーを見てきました。
これらのストーリーは大きな反響を呼びました。下記の記事を見れば、その影響のすごさが分かると思います。

公立の農業高校に2億円の寄付が集まるんですから、本当にすごいですよね。
このようにストーリーは人の感情に大きな影響を及ぼします。
SNSでの盛り上がりも相まって「金足旋風」と呼ばれる大きな社会現象となりました。

 

…しかしながら、ストーリーにはデメリットも存在します。
失敗を美談に変え、覆い隠してまうというデメリットです。

例えば、度々話題になっていた金農のエース吉田投手の投球数について。
地方大会からたった一人で甲子園の決勝戦まで投げ抜いてきました。
その投球数は、甲子園6試合だけでも881球に及ぶとのこと。

プロ野球の選手ですら、限界投球数の目安は100球前後。
そして、怪我をしないようローテーションを組んでオフの時間を作っています。

なのに、吉田投手は連日の試合に次ぐ試合。ピッチャー交代はなし。さらに災害級と称された今年の猛暑の中での運動。
この状況で、肘・肩を壊していない方がおかしいですね…。
吉田選手のカラダが本当に心配です…。

実は高校時代での連投がたたり、スポーツ人生を諦めざるをえなかった選手ってたくさんいるのです。
こういった選手への過剰な負担は、何年も前から指摘されていたのですが、いまだに改善されていません。

要因はいろいろあると思いますが、特に甲子園で生まれるストーリー性が強く影響しているのでは、と私は考えています。

「連投に次ぐ連投」は「選手のひたむきさ。諦めない心」へ。
「災害級猛暑でも外で試合させるのか」は「甲子園は球児の聖地だから」へ。

もはや理屈ではないんですよね。
人の心に訴えかける事によって、明らかな失敗でも、どんなに反論の筋が通っていても、”美談”に変えてしまう力がストーリーにはあります。
特に日本人には「散り際の美学」や「玉砕」と言った言葉があるように、何かと失敗を美学にしてしまいがちです。

まとめと余談

金農の活躍は今回の記事を執筆するにあたって、とても良い例でしたので、紹介しました。
長々と書いてきましたが、私が言いたいのは下記の点です。

この記事のまとめ
・ストーリーは、人を惹きつけて酔わせる強力な力を持っている。
・ストーリーには、メリット・デメリットがある。
・ストーリーのメリット:見た人・聞いた人に共感を呼び起こし、時として計り知れないほどの大きな社会現象にもなる。
・ストーリーデメリット:失敗を美談にして、覆い隠してしまう。

余談:ストーリーとデザイン

ちなみにですが、ストーリーはデザイン製作でもよく使われています。
例えばランディングページのデザイン。新商品のキャンペーンサイトにて開発秘話を紹介したり、購入者の悩みを解決したエピソードを載せて、ユーザーの感情に訴えています。

Webデザイナーである私が言うのもアレですが…セールスなどで意図的に用いられるストーリーには注意しましょう。
話し手がなぜそのストーリーを話すのか、根本の意図を読み取れるようにしないと、つい涙ぐんでしまい、買わなくても良い商品を買ってしまうことになります。

その他、何かと変なストーリーやエピソードが引用された時は注意した方が良いでしょうね。

では、また!

…twitterで「大阪桐蔭が阪神より強い説」が流れていてちょっと笑いました。