左利きのエレンから見るデザイン業界の闇(※ネタバレ注意)

左利きのエレン

本記事には左利きのエレンのネタバレが含まれております。
それでも良いという方のみご覧ください。

デザイン業界の光と闇を描いたマンガ「左利きのエレン」

みなさんは、左利きのエレンというマンガをご存知でしょうか。

まだ読んだことないという方は本ブログの心をえぐる仕事漫画「左利きのエレン」(※ネタバレ注意)という記事を読んでみてください。この記事は私なりに左利きのエレンの魅力をまとめたものです。
そして、ぜひ左利きのエレン本編を読んでみてください。

ちょこっと左利きのエレンの解説

ちょこっと左利きのエレンの解説をします。もう知っているよ。という方は飛ばしてください。
左利きのエレンは、主人公のデザイナー朝倉光一がデザイン業界で奮闘する仕事漫画です。

朝倉光一はデザイン界で有名になるべく奮闘するのですが、自らの凡人さに打ちひしがれ、多くの挫折を経験します。
物語の終盤で「しょせん自分はできる人の劣化コピーでしかない」、「もうデザインの世界から身を引こう…」と光一は考えます。
そうして、これが最後だと臨んだ仕事。ギリギリのところで光一はデザイン・仕事における大切なモノを見つけ、新たな一歩を踏み出す。
という形で物語は終わります。現在は本編後の話が連載されています。

個人的に思うこの作品の肝は、「天才になれなかった全ての人へ」とのキャッチコピー通り、光一が終始天才になれなかった・敵わなかったところにあると思います。
漫画の主人公であれば、やはり最後には努力が実って大成するのが常ですが、(少なくとも本編では)光一は天才達に勝つこともなく、大成することもなく一デザイナーとして、一クリエイティブディレクターとして終わります。

光一は「何者かにならなければ、退屈で退屈で生きていけない…」と言っていましたが、ついには「何者か」にはなれなかったわけです。
努力しても努力しても…凡人は凡人でした。
でも…それでも光一は最後の最後に何かを掴んだようですね。
カメラマンの佐久間威風が光一に何かを感じ取った描写もありました。

そんな事ないですよ…
だって…

だってオレは…
オレ達は…
完璧なんかじゃないから

この後、光一の人生は「始まった」みたいです。

デザイン業界の闇

さて、左利きのエレンのあらすじと主人公 光一の足跡を軽く振り返ったところで、本題にいきましょう。

本題は左利きのエレンから見るデザイン業界の闇です。

デザインを題材にした漫画は数あれど、これほどデザイン業界の現実を克明に描ききった作品はないと思います。
私もデザイン業界の人間、いわゆる業界人ですが、左利きのエレンを読み進めるたびに、胃が潰されるような想いでした。

光一達が作中で体験したことは、誇張でも比喩でもなく、現実のデザイナー・広告営業マンが体験する理不尽と何ら変わりありません。
日をまたぐ残業や、滝のような修正、めちゃくちゃな要求など…
信じたくはないですが、どれも実際に”ある”話です。

デザイン業界の理想と現実

デザイン業界というとオシャレな服装で優雅に出社。
Googleのようなシャレたオフィスで、スターバックスのコーヒーを飲みつつ、クリエイティブな想像に耽る。
天性の美的センスで、世の中をあっと言わせるような作品を作り出す…。

デザイン業界やデザイナーに対して、こんなイメージがある人も多いようですが、残念ながらこれらのイメージは超絶に美化されています。
もちろん上記の通りに仕事をしているデザイナーさんもいらっしゃるとは思います。
が! そんなの業界の一握り…作中でエレンが言ったとおり万が一くらいでしょう。


前置きが長くなりましたが、作品のセリフや出来事を引用しつつ、現実のデザイン・広告の世界を見つめてみましょう。

デザイン業界5つの闇

今回は下記の5つのデザイン業界の闇に焦点を絞り、話していきたいと思います。

  • デザイン業界は実力主義
  • 実は作る人間が一番儲からない
  • センスがなくなれば終わり
  • デザイン業界は内輪ネタばかり
  • 長時間労働

デザイン業界は実力主義

肩書きも…
経歴も…
コネも…
何も持たんと手ブラやないか

ー 柳一 ー

デザイン業界は至ってシンプルな実力主義です。
良いデザイン・売れるデザインを作れる人は重宝されますし、仕事が来ます。それができない人には仕事がきません。

20・30代は若い感性と体力を武器に、デザインを作ることが出来たとしても、その力がいつまでも続くとは限りません。
力がなくなれば、そこでお終いです。まぁそうなる前に、だいたいの人はディレクターになっていくのですが。

「デザイナーは死なず、ただ消え去るのみ」なのです。

実は作る人間が一番儲からない

現場に決済権があるか…
クライアントも同じや…

上が気に入っとらんもん
ガキの使い同士が
こねくり回してままごとかいな

ー 柳一 ー

これはどの業界にも当てはまるのではないでしょうか。
末端で作業する人間よりも、業界の仕組みに近い人間の方が儲かります。
この構造は歴史が証明してきた通りです。
不動産だろうと…株だろうと…なんだろうと…もちろんデザインも例外ではありません。

デザインを作る人間よりも、それらを束ねるディレクターが儲かります。そしてディレクターをまとめる人間がやはり儲けていて、その上が…といった構造です。
代替不可の天才的な仕事ができる人間で無い限り、世の中というものは、得てして肝心要の作業をする人間が儲からないように出来ているのです。

基本的には広告代理店がマージンで儲けて、制作会社はヒィヒィ言っている。
そんな感じです。

センスがなくなれば終わり

なんで神谷みたいになれんかも教えたるわ…

高次元の発想法やら
作家性のある言葉選びやら
常軌を逸する選美眼やら

つまりそういう何かしらのーーー

才能がなかったんや

ー 柳一 ー

上記のセリフの意図と若干異なりますが、「センス」はデザイン業界で生きていくために必須の力です。
そして、センスは後天的に獲得することはできます。


※センスの正体と獲得方法ついては、下記の私の記事をご覧ください
センスの正体と身につけ方
デザイナーとしての「ゆるやかな死」を読んで。センスの枯渇問題

世の99%の人間は凡人です。天才に真っ向勝負を挑んでも負けます。
なので、凡人が天才と戦うには、戦法か土俵を変えるしかありません。
センスは後天的に獲得可能なので、天才とは違ったセンスを身に着けることができれば、十分に戦えます。凡人なりに。

凡人にとって強力な武器であるセンスですが、何もしなければ、センスは枯渇します。
センスが枯渇したら最後、良いデザインを作ることが出来なくなってしまいます。
平凡なデザイン・マンネリ化したデザインをしか作れなくなってしまうのです。

この「センスの枯渇問題」に対抗するためには、大量のインプット・アウトプットが必要なのですが、日々の仕事に忙殺されて、インプットすらままならないデザイナーがいるのが現状です。

そういったデザイナーはどうなるか。使い捨てです。
センスがなくなれば良いデザインは作れない。作れないデザイナーはいらない。
ただそれだけです。

デザイン業界は内輪ネタばかり

広告賞なんて下らないですよ!!

だって業界内の身内で褒め合うとか
何がたのしいだかって感じじゃないスか!?

ー 三橋由利奈 ー

みっちゃん!よくぞ言ってくれました!
デザイン業界ってまさにこんな感じです。

電◯・博◯堂などの大手広告代理店、その他大手のデザイン団体が独自の広告賞と審査会を立ち上げて、自社のクリエイターを評価する。
自分たちが作った広告を自分たちで評価して、素晴らしい!って言っているのですよ。他所から見たら奇妙な光景でしょうね。
ただの内輪ネタじゃねーかよ!って。

佐野研二郎氏の東京オリンピックエンブレム問題で、多くの方がこのデザイン業界のいびつな関係を読み取ったのではないでしょうか。

広告業界の世界は持ちつ持たれつの横並びの世界です。これ自体は悪いことではありませんが、改革しようとしたり、風通しを良くしようとする企業・団体に対しては排他的な風潮があります。
既得権益を持った人間が大きい顔をしているのが広告業界です。

長時間労働

あんたにもあっただろ…

真夜中に誰もいないオフィスでーーー
自分の仕事を眺めて笑ったことが

ー 神谷雄介 ー

このセリフを書いておいて長時間労働を持ち出すのもどうかと思いますが(笑)

長時間労働ーーーこれは左利きのエレンの中でもよく描かれていますね。知っての通りデザイン業界、中でも広告業界は激務の世界です。
長時間労働が当たり前の世界ですね。深夜を超えてしまうことも多々あります。
ぶっちゃけ業界全体がブラックと言って良いでしょう。

長時間労働の理由としては、下記の点が挙げられるでしょう。

  • クライアント第一主義であること。
  • もともと広告業界は体育会系な基質であること。
  • インターネット広告の躍進により広告の露出機会・市場規模が増え、仕事が激増したこと。
  • 仕事のしわ寄せの多くは、末端のデザイナーへ押しつけられること。

2016年に電通新入社員自殺問題が大きな話題になりましたね。大変痛ましい事件でした。
> 電通の高橋まつりさん過労死・ブラックな鬼十則の内容まとめ

この事件を機に、業界全体が改善に乗り出したのですが、私としてはあまり変わった印象はありません。
むしろ喉元過ぎればなんとやらで、また業界の体質が戻りつつあるように感じます。

まとめ

私は何もデザイン業界はダメだ!とか、これから就職する人にデザイン業界はやめておけ!と言うためにこの記事を書いたわけではありません。
ただ現実としてデザイン業界にはこんな闇があるよ、と言いたいだけです。

左利きのエレンはデザイン業界の闇を見事に描ききっています。
見ている私まで胃がキリキリと痛めつけられました。嫌な思い出もよみがえりましたよ…。

これほどうまく描ききれたということは、作者であるよっぴーさんが実際に経験されたからでしょうね。
デザイン業界の闇を浄化され、もっと働きやすい環境になるよう切に願うばかりです。


こうして振り返ってみると柳はいわばデザイン業界の闇を体現したような人間なんですね。光一の倒すべき中ボスキャラクターみたいな。

あ。山岸エレンの物語もあるのですが、今回の記事の趣旨とは違うので、いつかまた時間がある時に書いてみたいと思います。